未来の駅

【第5章】未来の駅シナリオ「LDKステーション」

前章では、駅の「未来イシュー」と社会の「変化シナリオ」をインパクトダイナミクス手法を用いて課題アイデアを導出しました。

本章では、この課題アイデアを起点にした「未来の駅シナリオ」を紹介をしていきます。

 

■未来の駅シナリオ①「LDKステーション」

 

未来における生活者のライフスタイルは、家の中に物を極力持たない、所有しないという考え方へ変化することによって、家の中は自分で楽しむ趣味やこだわりに特化した空間の演出に集中するようになります。なぜなら生活者はこれまで家の中で行っていた料理、洗濯、服選び、お風呂などを外部の施設で共有し始めるからです。その外部の施設、すなわち巨大な共有スペースこそが、未来の駅の役割へとなります。

例えば、料理は、駅にある巨大冷蔵庫から食材を選び、共有のキッチンで料理をし、共有のダイニングで食事をとります。足りない料理や食べたい料理はフードコートから調達します。一人で食べる時もあれば、一緒に食べたいサインを出して、ちょっとした知り合いやその場でつながった共通の話題のある人と食卓を囲むこともあります。

 

 

このライフスタイルによって生活者は、様々なコミュニティを開拓するようになります。洗濯は、共有のコインランドリーや高速全自動洗濯乾燥機を使って行い、無料の配送サービスを使って自動的に家に届けてもらいます。服も必要最低限のアイテムしか所有せず、オシャレに着飾りたい時の服は、駅の中のシェアリングロッカーから選んで着用します。そして、どんな人が着ていた服かもチェックもできます。同じ服を着ていた好みの合う人とファッション談義もでき、ファッションを通じた様々なコミュニティに緩やかに参画することもできるようになるでしょう。

また、駅ナカのリビングスペースでは、様々なサービスやエンターテイメントが毎日のように開催されます。それは、まるで終わらないカーニバルのようであるといえるでしょう。それらを一人で楽しむ人、その場でつながってみんなで楽しむ人など、その選択はまさに自由なのです。つながりたければつながるし、つながりたくない日はつながらない。子供もシニアも働き盛り層もボーダレスに、そのつながり方の種類と選択は無限に広がることが期待できます。

 

そして、駅は、「LDKステーション」へとビジネスモデルを進化させます。駅でのLDKサービスは会員登録制のサブスクリプションモデルとなります。月額利用料、鉄道運賃との連携、個人情報の提供によるポイント連携のような柔軟な価格体系により、LDKサービスはすべてキャッシュレスで利用できます。もちろんサービス内容には複数のプランを用意され、空港のラウンジのように、快適にそしてスマートに駅を自由に使いこなすこととなるでしょう。「LDKステーション」のビジネスモデルにおいて、生活者は駅での様々な人や情報とのつながりを楽しむ事ができます。生活者が主役の街は駅を中心に発展します。駅は、様々な人の往来が見込まれ十分な空間が確保できるため、未来の共有生活と人々の多様なつながりを創造する最適な場として日常生活の拠点となるのです。

 

 

以上が駅の未来シナリオの一つ「LDKステーション」について紹介いたました。「LDKステーション」の要諦は、モノ・スキル・場所の共有、それを起点とした人との「つながり」です。「つながり」は、お互いの何かしらの共通点(生活における課題や趣味など)があり、さらに「きっかけ」がないと生じることは難しいものです。「LDKステーション」が実現すると、その共有を共通項ときっかけとなり、コミュニティが醸成され、未来のおいても駅は人々が集まる場となるのです。いわば、従来の駅ビルの主たる機能である「個の消費の場」から「群による共有・つながりの場」へと変貌していく必要があると言えます。

 

次章では、2つ目のシナリオ「キャラフル・アンサー・ステーション」を紹介いたします。

 

※本研究は、日本大学法学部臼井哲也教授との共同研究となります。

※日経広告研究所報301・302号に論文が掲載されています。