未来の駅

【第4章】駅が未来において解決すべき課題とは?

前章までは、演繹的推論によって5つの「未来イシュー」を設定し、帰納的推論によって3つの「社会変化シナリオ」を導出してきました。本章では、この未来イシューと社会変化シナリオとを交差させて表出した具体的なイノベーションである「課題アイデア」を紹介します。

 

【インパクトダイナミクス表】

未来洞察における最終段階が「インパクトダイナミクス手法」となります。

導出された5つの「未来イシュー」である

 ①移動人口の減少(人口減少、少子高齢化、単身世帯など)

 ②モビリティ革命(自動運転・MaaSなど)

 ③消費行動の変化(EC、モノ・コト、C2Cなど)

 ④コミュニティの変化(シェアリング、リアル・ネットなど)

 ⑤価値観の変化(欲求、幸福など)

3つの「社会変化シナリオ」である

 ①バリアブル・モーメント・ライフ

 ②想定内社会におけるドラマチック消費

 ③アメーバ・コミュニティ

を「インパクトダイナミクス」を使って交差させ、未来の駅に期待される解決すべき生活者が抱える課題とニーズに関するアイデアが以下の表となります。なお、5つの未来イシューに関してそれぞれの専門分野(社会学・幸福学・自動車産業論・駅消費論・MaaS・コミュニティ・OMO・VR等)の第一人者である大学教授や実務家を有識者として9名選出し、2期に分けて個別にインタビューを実施しました。ここから得られた知見を踏まえ15個のアイデアが導出されました。

 

 

 

これらの課題アイデアの一覧を俯瞰してみると、未来の駅は、多種多様な目的を持った生活者が行き交う新しい交流の方法を最大化する重要な目的地となることが推察されます。以下では、とくに興味深い「課題アイデア」を4つを紹介します。

 

(1)駅が私の生活空間

単身世帯の増加を背景に、家中ゴトは家の外で、人と一緒に行うものになる。食事は共有キッチン、洗濯はコインランドリー、お風呂は銭湯、服はシェアリングロッカーという具合となる。共有化(シェアリング)を起点に、家の中からモノが無くなっていき、日々の家事をみんなで共有しながら行う時代に。

 

(2)みんなで作る消費社会活動

モノやコトの飽和により、消費は経済活動から社会的な活動へと変化していく。モノの売買、サービスの交換はそれ自体が目的とはならず、生活者は消費を通して社会とリンクする。社会的な消費活動は「見える化」し、生活者は生産と消費の過程、購入者のコミュニティ情報などに基づき購買の意思決定を行う。

 

(3)つながり方で瞬間の欲求を満たす

生活者は、瞬間の欲求を「何と、どのように、どうやって」つながるのかで満たすようになる。時には固く、時にはゆるく、つながり方の強度が選択でき、寂しさを紛らわすことも気分を上げることも、他者や情報とのつながり方ひとつで自在になる。その瞬間の欲望・欲求は、その時のつながり方を最適化することで満たされる。

 

(4)空間は自己表現ギャラリー

かつて人々が音楽を身にまとって街に出たように(70年代のソニーのウォークマンの登場)、未来社会の生活者は空間を身にまとって街に出るようになる。空間を身にまとうとは、ウェアラブル・デバイスを通してリアルと仮想空間が融合した空間を作り出し、気分によってリアルな空間を自分の好きなように仮想空間内で色付けする行為である。生活者は、仮想空間を身にまとうようになると、他の生活者と仮想空間を共有できるようになる。

 

以上4つの課題アイデアを紹介しました。これらは次章で示す未来の駅シナリオの中心となる重要な要素となります。これら4つの課題アイデアを起点とし、インパクトダイナミクス表上で領域横断的に関連性の強いアイデアを互いに融合させ、作成した未来の駅シナリオを次章にて紹介いたします。

 

※本研究は、日本大学法学部臼井哲也教授との共同研究となります。

※日経広告研究所報301・302号に論文が掲載されています