未来の駅

【第8章】「LDKステーションと沿線多拠点生活」の可能性

2035年の未来の駅にはどのような機能が求められるでしょうか。

 

現在の駅は、交通の結節点として日々多くの人が行き交い、商業機能が集積し、街の賑わいの中心に位置しています。しかし、高齢社会の本格化と単身者世帯の増加、デジタル社会の進展、多様な働き方の広がりなど、日本社会全体に生じている大きな変化が、現在の駅のあり方に進化を迫っています。さらに、コロナ禍によって、その必要性は、緊急性の高い課題として突然表面化しました。

 

このような問題意識のもと、私たちは未来の駅が備えるべき機能について、今まで紹介してきました。これらの提案のなかでも「LDKステーション」「キャラフル・アンサー・ステーション」から発想される「沿線多拠点生活」は、未来の生活者のライフスタイルを捉えた新しい駅サービスとして特に可能性を感じています。

「LDKステーション」とは、現在のコ・ワーキングスペースの提供に加え、生活者がリビング(L)、ダイニング(D)、キッチン(K)など、本来は自宅内に備えるべき機能を駅へ外部化し、他者とこれらを共有(シェアリング)することにより、仕事とプライベートの両方において日常生活のさらなる充実を目指す次世代の駅サービスのコンセプトであります。

「キャラフル・アンサー・ステーション」とは、沿線上の各駅が、その街の特性(生活者の特徴、地域資源など)を起点としたキャラ付けとそれを満たす機能が付加されることによって、沿線にキャラが溢れる「キャラフル」となり、生活者のその時々の欲求や必要なことに対して素早く最適に満たします。それによって、生活者は、沿線のあらゆる場所を自分のテリトリーとして自由に、創造的に活用するようになるといった駅を起点とした沿線サービスのコンセプトです。

 

 

私たちの研究によれば、未来の生活者は、他者とゆるやかなで柔軟なつながりを求めるようになります。デジタルネットワークを通じていつでも何にでもアクセスできる高速デジタル社会においては、人と直接会うことの価値、他者と柔軟に自由につながることの価値が増大していきます。また未来の生活者の所有に対する価値観は変化し、自宅にはこだわりの詰まった特定のモノを所有する一方で、あまり重要ではない周辺物についてはシェアを好むようになります。加えて、場所と時間を選ばない働き方がますます広がる社会では、会社と自宅を往復する定番のライフスタイルも変化していきます。未来の生活者は、自宅を所有しながらも、自宅内に所有する生活機能を最小化し、自宅と複数の生活拠点、そして職場を縦横無尽に活用するライフスタイルを実践するようになることでしょう。

 

次章では、これらを踏まえ、「LDKステーションと沿線多拠点生活」の提供価値を導出するために「シェアリング」「住居とライフスタイル」「ミニマリズム」「おひとりさま」をテーマに実施した専門家よりいただいた示唆を紹介していきます。

 

※本研究は、日本大学法学部臼井哲也教授との共同研究となります。

※日経広告研究所報310・311号に論文が掲載されています。