未来の駅

【第6章】未来の駅シナリオ「キャラフル・アンサー・ステーション」

前章では、駅の未来シナリオの一つである「LDKステーション」について紹介しました。本章では、ふたつめのシナリオ「キャラフル・アンサー・ステーション」について紹介します。

 

■未来シナリオ②「キャラフル・アンサー・ステーション」

 

未来の生活者は、AIによる精緻なレコメンドによって様々な生活課題に対する解が最適化された「想定内社会」(※)の中で過ごし、瞬間毎の欲求が最適に満たされる環境に慣れ親しむようになります。移動はシームレス化され、時間から解放された働き方が定着し、生活者は場所にこだわりを持たなくなるでしょう。ネットとリアルの境目も、もはや存在しません。一方で、生活者は想定された型や殻の中に今以上に閉じこもるようになり、最適化された環境ではストレスが無い代わりに、刺激的な満足感は不足するようになります。

 

想定化社会

あらゆる情報がデータとして活用されパーソナライズ化が進み、テクノロジーの発達も手伝って生活者の活動は高効率化。それによって趣味・嗜好に対してレコメンドされた情報は生活者に安定と余裕を与え、日々の生活はすべて失敗のない、想定内で構成された無機質な高度に予測可能な社会、隙のない社会。※詳しくは第3章を参照

 

 

このような環境において駅は、様々な瞬間毎の欲求を「想定外」に満たしてくれる場所として機能し始めます。駅における人々の往来は、そもそも想定外の出来事が生じる源泉であり、駅が様々な場面で想定外を演出することによって、瞬間の欲求を満たす役割を担うようになります。駅に行くと、毎日違うコミュニティに出会える。駅に行くと、毎日違う想定外のコンテンツで溢れている。それによって、同じ環境、同じ行動から抜け、駅に行くだけで「いつもと違う」を感じることができるようになるでしょう。その内容は、普段のレコメンド生活では味わえない意外性に富んだドラマチックな体験となります。

 

これを叶えるために、駅はそれぞれキャラクター(個性)を持つことが求められます。他には無い、その場所や地域ならではの特徴をご当地のコンテンツやイベントへ昇華させて提供することが重要となります。たとえば、クリエイターにその地域ならではのMR用空間コンテンツを創作してもらい、期間限定・地域限定で展開します。それを気に入ってくれた人には、そのまま空間コンテンツの販売も行います。駅の物理的空間はテクノロジーと融合し、無限のエンターテイメント空間として進化を続けるでしょう。

 

この新しい駅の機能を最大化するために、鉄道そのものに新しい機能が加わります。たとえば、駅上は、物流倉庫となり、物の配送は線路上をドローンが行き来し、貨客混載によって人と物の高効率な流れを実現する高度な物流システムが構築されます。駅は高度な物流システムのノード(結合点)としての機能を担うことになります。そして移動サービスは、瞬間の欲求を満たすためのサポート機能を生活者へ提供します。つまり、点(駅)だけではなく面全体(沿線)で自由な移動を支援し、人が移動をしたりモノやサービスがその場にすぐに届いたりと、生活者のその時々の欲求や必要なことに対して素早く最適に対応することこそが鉄道会社が提供する価値の中心となるでしょう。仕事においても沿線のあらゆる場所を自分のテリトリーとして自由に活用し、創造的に取り組むことができます。電車の中でも、駅の中でも、駅の周りの魅力的な場所でも仕事は自由にできるようになります。

 

 

このように生活者はその時の気分で個性的な駅を訪れ、その場所とその瞬間を楽しむことができるようになるでしょう。途中下車による想定外の街散策と新たな発見や出会いが当たり前の日常が繰り広げられます。

 

 

以上が、ふたつめの駅の未来シナリオの一つ「キャラフル・アンサー・ステーション」について紹介いたました。沿線上の各駅が、その街の特性(生活者の特徴、地域資源など)を起点としたキャラ付けとそれを満たす機能が付加されることによって、沿線にキャラが溢れる「キャラフル」へとなります。ここでの要諦は、沿線人口の減少が予測される未来において、生活者のその沿線上で活動する街・駅が増え、移動が活発化することにあります。それによって、「沿線関係人口」が増え、人口減少社会においても沿線マーケットを保つことができるのです。

 

次章では、最後のシナリオ「価値創発ステーション」を紹介いたします。

 

※本研究は、日本大学法学部臼井哲也教授との共同研究となります。

※日経広告研究所報301・302号に論文が掲載されています。