未来の駅

【第1章】未来洞察への挑戦

●未来洞察の方法

未来洞察はいわゆる未来予測とは異なります。未来予測は、現在の直線的な延長で未来を描きます。それゆえに、未来において従来とは大きく異なる方向性の出来事に対する適応力が弱いという限界があります。一方で、未来洞察は、未来は不確実性が高く非線形であるという前提のもと、近未来で起こりうる複数の可能性をシナリオとして描き出すことに適しています。本研究は、未来の駅を線形上に予測するだけでなく、複数の社会変化シナリオを描き、駅の新たな価値を洞察する試みであります。

今回、具体的な方法は「インパクトダイナミクス手法」を用いています。これは、予測と洞察を交差させることを通じて、イノベーションを考察する手法です。ここでは予測が「未来イシュー」、洞察が「社会変化シナリオ」に対応します。

 

●未来イシューと社会変化シナリオ

「未来イシュー」とは未来洞察を行うときの、いわば主語の役割を果たすものものであり、「何の未来シナリオをつくるのか」にあたります(鷲田、2016)。本研究においては、駅の未来シナリオの策定が目標のため、現在の延長線上で予測できる未来の駅が抱えるであろう「イシュー」を

 ①移動人口の減少(人口減少、少子高齢化、単身世帯など)

 ②モビリティ革命(自動運転・MaaSなど)

 ③消費行動の変化(EC、モノ・コト、C2Cなど)

 ④コミュニティの変化(シェアリング、リアル・ネットなど)

 ⑤価値観の変化(欲求、幸福など)

といった5つに策定しました。

続く「社会変化シナリオ」の作成では「スキャニング手法」を採用しました。スキャニング手法は、スキャニングマテリアルと呼ばれる「未来の芽」の収集から始まります。これは、現在においてはメインストリームではないが、未来の変化に大きなインパクトを与える可能性がある出来事を、様々なニュースソースから収集するシナリオの「種」のことです。今回は、「政治」「経済」「技術」「社会・文化」「自然環境」といった分野より、100個以上の収集しました。これを、ワークショップにて下記のようにキーワードで分類しました。

 

【社会変化キーワード集】

 

 

※筆者作成

最終的には、これらのキーワードをもとにアイデアを発散および統廃合することによって、

 ①「バリアブル・モーメント・ライフ」・・・その瞬間を刹那的に謳歌する生き方が主流となる社会

 ②「想定内社会におけるドラマチック消費」・・・想定外のドラマ性が消費の原動力となる社会

 ③「アメーバ・コミュニティ」・・・目的に応じた緩やかなコミュニティが求められる社会

といった3つの「社会変化シナリオ」を導出しました。

 

※スキャニング手法とは、1970年代に米国スタンフォード・リサーチ・インスティチュート(SRI)が開発した手法

 

●「未来の駅」の描き方

未来洞察における最終段階が「インパクトダイナミクス手法」となります。導出された5つの「未来イシュー」と3つの「社会変化シナリオ」を「インパクトダイナミクス」を使って交差させ、未来の駅に期待される解決すべき生活者が抱える課題とニーズに関するアイデアを導出します。これが、本研究の目標である未来の駅が備えるべき新しい機能を示します。最終的には、策定した5つの「未来イシュー」に詳しい専門分野の第一人者である大学教授や実務家に対してインタビューを行い、シナリオとアイデアの評価をしていただき、「未来の駅シナリオ」を策定しました。

 

【インパクトダイナミクス表】

筆者作成

 

次回は、未来の駅が抱えることが予測できる5つの「未来イシュー」について論じていきます。

 

<参考文献>

・鷲田祐一編(2016)「未来洞察のための思考法ーシナリオにおける問題解決ー」勁草書房

 

※本研究は、日本大学法学部臼井哲也教授との共同研究となります。

※日経広告研究所報301・302号に論文が掲載されています。