未来の駅

【第2章】未来に向けて今から備えるべき課題「5つの未来イシュー」とは?(前編) 

本研究において、駅が抱える未来イシュー(※)は、①人口減少・少子高齢化 ②モビリティ ③消費 ④コミュニティ ⑤価値観の5分野としました。ここでは①~③を選定した理由と予測される事象について論じていきます。

 

※「未来イシュー」とは未来洞察を行うときの、いわば主語の役割を果たすものものであり、「何の未来シナリオをつくるのか」にあたります。(鷲田、2016)詳しくは、前章をご参照してください。

 

【未来イシュー① 人口減少・少子高齢化】

 

 

現在、駅の価値は乗降人員数に代表されるトラフィック(交通量・移動量)が主であるため、「人口減少・少子高齢化」を未来イシューとして選定しました。従来、駅での不動産ビジネス(ショッピングセンター等)、広告媒体ビジネス(看板・ポスター)はトラフィックによって価値(価格)を決めていました。しかし、トラフィックによる価値は低下しつづけることが容易に予測されます。この価値の低下は、少子高齢化に伴う通勤・通学客の減少、サテライトオフィスや在宅勤務の普及による通勤頻度の減少などの複数の要因によって加速的に進行すると予測されます。そのため、駅の価値を維持・向上させるためには、駅が通過点ではなく駅そのものが目的地になることが求められます。現在でも買物目的地となっている駅は存在しますが、未来におけるモノの集積がもたらす価値の低下には検討の余地があるため、駅に新たな目的を持たせることが重要となってきます。そこで着目するのが「人が交差する場」という駅の特性です。国立社会保障・人口問題研究所(2018)によれば、将来に向けて人口は減少するものの、単身世帯の比率は上昇し2035年には全世帯の約4割に達し、「超ソロ社会」(荒川2017)の到来が予測されます。高齢化のみならず、晩婚化・非婚化がこれを促進されると、「孤立」といった社会課題が生じてきます。「人口減少・少子高齢化」において人が交差する駅は、孤立社会の課題を解決し、新たな価値を生み出す可能性を備えているといえるでしょう。

 

【未来イシュー② モビリティ】

 

 

自動運転車の普及が駅の価値に与える影響は計り知れません。官民ITS構想・ロードマップ2017によれば、2025年には高速道路での「完全自動運転(レベル4)」が実現するとあります。また、Uberに代表されるシェアライドの普及もモビリティ環境に大きな変化をもたらします。シェアライドは、法規制によってまだ我が国では充分に普及していませんが、いずれ高齢化の進展による人手不足解消のため普及が加速すると予測され、さらにシェアライドの自動運転化により、高効率な輸送サービスが実現し、高度な交通ネットワークが構築されていきます。交通弱者にとっては移動や遠出が容易となり、快適なモビリティライフが実現するでしょう。フューチャーモビリティは鉄道の代替と目され脅威となる一方で、外出頻度増加の要因ともなりえるため、駅にはフューチャーモビリティ環境を前提とした新たな価値の付与が求められるでしょう。

 

【未来イシュー③:消費】

 

 

デジタル化時代の小売と消費の変容は、駅の商業機能としての価値にどのような影響を与えるのでしょうか?首都圏には年商100億円を超える商業施設が数多く存在します。その代表であるルミネ新宿の年商は約450億円にも昇り、商業不動産事業は鉄道会社の収益の柱となっているといえるでしょう。日本ショッピングセンター協会(2017)のレポートによると、現在のSC(ショッピングセンター)は、モノからコトへの消費行動の変化に対応するため、レストラン・カフェやサービスといったコト消費カテゴリーのテナント構成比率を上昇させています。しかし依然としてファッション衣料・雑貨を中心とした物販テナントの売場面積シェアは高いのが実態です。モノを売るうえで脅威となるのは、コトへのシフトのみならず、「リアル」から「ネット」へのシフト、「所有」からシェアリングエコノミーによる「共有」へのシフト、「B2C」からネットオークションに代表される「C2C(消費者間の取引)」へのシフトといった変化が同時に、かつ急速に進行している点にあります。これはテクノロジーの進化によってさらに普及し、未来においては世代を問わず一般的な消費行動になると予測されます。また、テクノロジーの進化は新たな消費行動を誘発する可能性も秘めています。たとえば「VR(ヴァーチャル・リアリティ)」があります。現在、「VR」はゲーム領域での普及が進んでいますが、「VR」による仮想売場が、ヴァーチャルならではの制約のない表現力によってブランドの世界感と買物高揚感を刺激する魅力的な空間を実現する場合、リアル店舗はさらに苦境に立たされるでしょう。駅は未来の消費においてリアルな場ならではの価値を追求しなくてはならないでしょう。

 

以上、今回は「5つの未来イシュー」のうち「人口減少・少子高齢化」「モビリティ」「消費」の3つについて論じました。次回は残りの2つ「コミュニティ」「価値観」について論じていきます。

 

※本研究は、日本大学法学部臼井哲也教授との共同研究となります。

※日経広告研究所報301・302号に論文が掲載されています