【vol.11】負からのマーケティング 「無駄」が価値になる。
今回からは、「価値リノベーション」(Renovation of Value)における「負」からの価値づくりを「無駄」の観点から数回に分けてお話します。
●「無駄」の無い時代に -便利が「無駄」な行為を生む-
みなさん、最近「無駄」なことが少なくなってきたと思いませんか?
もはや、「便利」が当たり前になって、改めてそんなことを思うこともないかもしれません。なぜなら、技術の進歩によって便利なツールが開発され、それを使用することによって、そこに掛けていた労力は省かれ、そして、その労力は「無駄」となり、いつの間にか忘れてしまうからです。
みなさん、移動する際にはウェブサイトやアプリの乗換案内サービスを使っていることでしょう。このサービスは、場所・時間を指定すると最短・最安で行けるルートを提示してくれますし、出口や乗り換えに最適な車両までも提示してくれるといったとても便利なものです。しかし、これが存在しなかった時代には、私たちは、どのように時間通りに行ける最適ルートを調べていたのでしょうか?
昔は、「本の時刻表」を使っていたのです。20代の方などは、使ったことも、ひょっとしたら存在すらないかもしれません。
この「時刻表」でどのように調べていたかを言うと、まず路線図を見て利用する路線と乗換駅を把握し、次にその路線のページにて到着と乗車の時間を調べ、乗り換えがある場合は、それを繰り返すという、デジタルネイティブの若者にとっては、信じられないぐらいの「手間」がかかり、なんて「無駄」な行為だと思うことでしょう。ましてや、乗り換えにどのくらいかかるのか、駅から目的地へはどのくらいかかるのかなどは、「おそらく10分もあれば行けるだろう」と非常に曖昧で感覚的だったため、「早く着きすぎた」「遅刻した」といったことが頻繁におき、「目的地に時間通りに着く」という目的の達成すら不確実なものでした。
労力をかけず最適な解を出すといった生産性からいうと、「本の時刻表」で調べるという行為は、全くもって「無駄」な行為と言えるでしょう。実際、発行部数はインターネットが普及する前と比較すると大きく減少しています。同様のことは、紙の「新聞」「地図」「辞書」などにも言えます。探せば、他にもいくらでもあることでしょう。
現在、当たり前のように使っているモバイル端末、その中に存在するウェブサイト・アプリは、それまで何かしらの目的のためにかけていた「手間」の代替として、最小の労力で最適に達成できます。そして、このような便利ツールは、日々開発・リリースされ、アップデートされ続けるため、数年前の自分の行為をメタ的にみた時には、「なんて無駄なことばかりしているんだろう」と思うことでしょう。それだけ、技術が進歩するたびに、新たな「無駄」な行為を生んできたと言えますし、現代社会は、技術の飛躍的進歩による恩恵である「便利」を当たり前に享受している社会だとも言えます。
しかしながら、あまりにも「便利」になることによって人間が失うものは無いのかと思う人もきっと少なくないと思います。言い換えると、「便利になればなるほど、人は幸福になるのか?」という疑問です。その疑問を明らかにすべく次回は、「幸福と便利」の関係についてお話したいと思います。
※本コラムでご紹介しきれない内容は以下の書籍で詳しくご紹介をしておりますので、是非お手に取ってみてください。