未来の駅

【第7章】未来の駅シナリオ「価値創発ステーション ー駅がStageに-」

前章まで2つの未来の駅シナリオ「LDKステーション」「キャラフル・アンサー・ステーション」を紹介しました。本章では、最後の駅シナリオ「価値創発ステーション」を紹介します。

 

■未来の駅シナリオ③「価値創発ステーション」

 

生活者の消費に対する意識は、つながりの消費へと急激に変化しています。つながり消費とは、社会とのつながりに意味的価値を見出す消費のことです。2035年の未来社会においては、誰しもが消費者である一方で生産者にもなり、社会との関係性を構築しやすい環境となっているでしょう。そのような環境下においては、自分の価値を他者に対して表現したいという意識が芽生えると共に、自分の価値に対する社会的評価をもっと知りたいという欲求も生まれてきます。自分の提供する商品やサービスは、どのような人が購入しているのか、購入後にどのような影響を与えているのか。社会にとって自分がどのような価値を提供できるのか。これこそが、消費活動と生産活動を突き動かす動機の源泉となるのです。

このような未来社会において、駅では「つながり消費」を目的とした空間が形成されます。そこでは、アーティストのよるMR(複合現実)を駆使した自由なアートもあれば、地域住民が製作したモノ・サービス・コンテンツを展示するショールームや直売店といった使い方も可能となります。

 

駅は様々な価値観を持った人々が往来するため、意図しない消費や購買が生じたり、想定しない意見やアドバイスを享受出来たりと、つながりの偶有性が実現されます。駅では、自分の世界のみでは出会えないような偶発的な出会いがあり、新たな発見や新たな気付きを享受することが可能となります。駅は、同じ価値観、共通の趣味やライフスタイルをもった人だけが集まる場所ではないため、自分の新たな価値を発見し、磨き上げる場として機能するのです。

 

以上、最後の未来の駅シナリオ「価値創発ステーション」を紹介しました。モノ・スキル・場のシェアリングによって誰しもが生産者や表現者になることができる未来において、多様な生活者が交わる駅で、多様な生活者がモノやアートを媒介に自己表現をし、さらに、そこでの個と個との多様な偶発的な出会いが刺激となって、また新たなアイデアが生まれる場となるのです。もともと「Station(駅)」の語源は「Stage(舞台)」と同じ「Stand(立つ)」であると言われています。まさに、駅は、個に開放されたステージとなり、多様なオーディエンスとの交流・刺激によって、新たな価値が創発される場となるのです。

 

次回からは、3つの駅シナリオ「LDKステーション」「キャラフル・アンサー・ステーション」「価値創発ステーション」から得たこれからの沿線・駅ビジネスモデルの可能性について紹介していきます。

 

※本研究は、日本大学法学部臼井哲也教授との共同研究となります。

※日経広告研究所報301・302号に論文が掲載されています。