価値リノベーション研究

【Vol.4】「写ルンです」はレトロだけど、“新しい”!

レンズ付きフィルム「写ルンです」に注目し、発売当時を知らない若者の中で再ブームとなっているという“価値リノベーション”の構造について、Vol.2の記事より連載しています。

前回は、若者でも「写ルンです」の写真に対してノスタルジア感情が喚起されていることを確認しました。

今回は、「写ルンです」が持つ“新奇性”に注目します。

 

●「写ルンです」はレトロであると同時に、新しいものである

Vol.2の記事で要素としてあげた「新奇性」は、「SNSにアップする写真を撮る」という目的志向カテゴリーにおける新奇性を指します。つまり、その目的を達成するためには、現代は手軽なスマートフォンが中心となっておりますが、機能性の観点からも「写ルンです」は当てはまりにくく、新奇性が高いのではと考えられます。そこで、「写ルンです」で撮影した写真をSNSに投稿したことがある20代以下男女600名に対し、SNSにアップする写真を撮るために「写ルンです」を使うことについて、あなたはどのように感じますか?という質問をしました。その結果、「新鮮な感じがする」に対して約半数が、そう思うと回答しておりました。(下記図参照)

 

 

「写ルンです」で撮影される写真には、「懐かしい」というノスタルジア感情を抱いておりましたが、その一方で、「写ルンです」の使用に関しては目新しさを感じている方も多いようです。

アンケートからは、以下のような記述も見られました。

 

今現在、アプリなどがたくさんあり、スマホで撮る人が多いから新鮮に感じる。(女性 20歳)

 

懐かしい感じと逆に新しい感じがある。(女性 27歳)

 

スマホで簡単に写真が撮れる世の中なのに、お金を出して写ルンですで写真を撮るという行動が最新技術に頼るだけではないということを意識できて、いいなと思う。(女性 18歳)

 

今は加工など携帯に保存など簡単にできて使い捨てカメラは、現像しないと見れないのでどんな風に撮れているかとか分からないからいいと思う。(女性 19歳)

 

写真を撮るのに主流となっているスマートフォンと比較したコメントが目立ちます。

「写ルンです」は、撮影できる枚数に限りがあり、ズームやピント合わせ機能もない、1枚撮影するごとに巻き上げダイアルを手回しし、その場で撮った写真を確認できず、カメラ屋に現像しに行かなければならない…といったように、スマートフォンと比べると古く、機能面で劣っていると言えます。

しかし、10代20代の若者から見ると、それは“最新ではないが、新鮮な機能”と捉えられており、必ずしもネガティブな要素とはなっていないのです。

 

前回の内容と合わせると、「写ルンです」は若者に対して“歴史的ノスタルジア感情”と“新奇性”を喚起していることが見えてきました。

次回は、「写ルンです」の使用がどのような効用をもたらしているのかに注目していきます。

是非ご覧ください。

 

※調査概要については【Vol.3】の記事をご参照ください。

※本稿の一部は、「若者のレトロ商品における利用動機に関する研究 ─使い捨てフィルムカメラを対象としたノスタルジアと新奇性からの検討─」として、日本プロモーショナル・マーケティング学会の平成30年度研究助成を賜り実施した内容となり、学会賞に選出されました。

論文集『プロモーショナルマーケティング研究』Vol.12に掲載されております。
※本研究は、武蔵野美術大学ソーシャルクリエイティブ研究所客員研究員である水師 裕 さんとの共同研究となります。