価値リノベーション研究

【vol.2】「古い」の価値リノベーション構造とは? ~要素の検討~

●なぜ今、「写ルンです」が若者に人気なのか?

Vol.1の記事で若者の中でレトロブームが起こっていることをご紹介いたしました。その価値リノベーション構造を探るべく、具体的に、レンズ付きフィルム「写ルンです」を対象として深堀をしてみます。
「写ルンです」は、1986年に株式会社富士フイルムより発売され、当時大ヒットとなりました。しかしながら、その後デジタルカメラの勢いに押され徐々に姿を見なくなり、さらに最近では、スマートフォンのカメラの機能が格段に向上しており、カメラを持たないことも普通となってきています。

ところが、若者の中で「写ルンです」が再燃しており、特にtwitter、Instagram、facebook といったSNSにその写真が投稿されるケースが多く見られるようになり、昨今のレトロブームの筆頭格といえるでしょう。

「写ルンです」の写真は現像することが基本であり、SNSに投稿する際にも写真店に行き、現像とデジタル変換の手続きを踏むという手順が必要です。スマートフォンでのアプリケーションを利用すれば、今やデジタルで簡便にレトロ風に加工することができるにも関わらず、なぜ敢えてアナログで撮ったレトロな写真をわざわざデジタル変換してSNSに投稿するのか、そのメカニズムを明らかにすることで、「古い」が価値リノベーションする構造を探ります。

 

 

●歴史的ノスタルジアと新奇性

Vol.1の記事で、ノスタルジア感情の分類について触れましたが、「写ルンです」の流行当時を知らない若者が懐かしさを感じているのであれば、それは大きくは「歴史的ノスタルジア感情(historical nostalgia)」が喚起されていると言えます。では、歴史的ノスタルジア感情だけ喚起できれば、「写ルンです」はブームになっていたのか?ということを考えると、もう少し他の視点も併せて検討する必要がありそうです。なぜなら、当時と全く同様の使い方をしているのではなく、SNSに投稿するような若者独自の楽しみ方をしているからです。

 

そこで、歴史的ノスタルジア感情に加え、「新奇性」という要素についても検討してみます。SNSに投稿する写真を撮影するために「写ルンです」を使用することに“新鮮さ”を感じているのではないでしょうか。

 

消費者行動の研究領域では、消費者の認知プロセスのひとつとして、カテゴリー化理論が唱えられています。これは、消費者が自分の持っている知識を用いて、対象を識別するための手段を指します。その中でも、Barsalou(1983)は「目的志向カテゴリー」を提唱しており、これは、例えば「ガレージセールで売るもの」など、ある目的によって構築されるカテゴリーであり、このようなカテゴリー化によって、不要な物を売るという目的を達成するのに役立つと指摘しています。

 

今回の場合、「SNSに投稿する写真を撮る」という目的志向カテゴリーを考えると、現代は手軽なスマートフォンが中心となっており、それと比較して機能性の観点からも「写ルンです」は当てはまりにくく、「写ルンです」は「SNSに投稿する写真を撮る」というカテゴリーにおいて新奇性が高いと考えられます。

 

これらの要素を起点として生じる様々な体験価値を媒介し、「写ルンです」に対する好意形成が行われていると仮定し、アンケート調査を実施しました。

次回、アンケート調査結果の詳細をご紹介いたします。

 

※参考論文

Barsalou, L. W. (1983), “Ad Hoc Category,” Memory and Cognition, Vol.11, No.3, 211-277.

 

※本稿の一部は、「若者のレトロ商品における利用動機に関する研究 ─使い捨てフィルムカメラを対象としたノスタルジアと新奇性からの検討─」として、日本プロモーショナル・マーケティング学会の平成30年度研究助成を賜り実施した内容となり、論文集『プロモーショナルマーケティング研究』Vol.12に掲載されております。