価値リノベーション研究

【Vol.7】『写ルンです』利用意図への個人差要因って?

こんにちは。

前回に引き続き、本コラムでは若者のレトロブームに注目していきます。

前回は、若者が「写ルンです」で撮影した写真をSNSに投稿するまでのメカニズムの解明を試みました。前回のパス図を以下に再掲しますが、「新奇性」と「懐かしさ感情」を起点とした体験価値創出によって示されていました。

今回は、そのプロセスには個人差要因により違いがみられるのか?ということについて検討していきます。

 

 

●ノスタルジアの感じやすさによる違いはみられなかった!

 

 

まず1つ目が、「ノスタルジア性向」(Holbrook 1993)すなわちノスタルジアの感じやすさによって、上記パス図(「写ルンです」利用意図までのプロセス)に違いがみられるのかを検討しました。

ノスタルジア性向の高低を多母集団とする共分散構造分析を実施したところ、両者の差はみられないという結果となり、ノスタルジア性向によっては左右されないモデルであることがいえます。

 

●経験量が浅い人は「感情的価値」を、経験量が多い人は「象徴的価値」をより感じている!

 

 

2つ目に、「写ルンです」で撮影した写真をSNSに投稿した経験量の違いによって、上記パス図(「写ルンです」利用意図までのプロセス)差がみられるのかを検討しました。調査対象者における投稿回数の平均値以上の人を高群(n=269)、平均値未満の人を低群(n=331)に分類し、高低を多母集団とする共分散構造分析を実施しました。

 

その結果、冒頭の図の中央部にある、感情的価値および象徴的価値から、製品態度への影響力に違いがありました。

感情的価値から製品態度への影響力は、SNS投稿回数低群(経験量が浅い人)の方が大きく、逆に象徴的価値から製品態度への影響力は、SNS投稿回数高群(経験量が多い人)の方が大きくなっていました。

このような違いがみられる理由としては、両者で“利用目的が異なっている”ということがあるのではないでしょうか。つまり、投稿経験が浅い初期段階は、「楽しい、ワクワクする」といった好奇心や一時の快楽感情を満たすために利用していますが、投稿経験が増えてくると、「自分らしさの表現」といった深い内面や他者への見え方に価値を置くようになっているということです。

以下にイメージ図を示します。

 

 

経験量によって得られる体験価値が異なってくることから、例えばプロモーション施策を講じる場合を考えたとき、ターゲットによって訴求内容を変化させることが望ましいでしょう。

初期利用者には「感情的価値」を、経験量が多い利用者には「象徴的価値」を感じさせるような訴求をすることが必要といえます。

 

いかがでしたでしょうか。あくまでも若者レトロブームの代表格として「写ルンです」を事例にした調査ではありますが、参考になる点はございましたでしょうか。

今回は経験量によっての差がみられましたが、レトロブームが浸透化してきている昨今、ユーザーがどのような状況にあるのか把握することはますます必要であるといえるでしょう。

 

次回も是非ご覧ください。

 

※調査概要については【Vol.3】の記事をご参照ください。

※本稿の一部は、「若者のレトロ商品における利用動機に関する研究 ─使い捨てフィルムカメラを対象としたノスタルジアと新奇性からの検討─」として、日本プロモーショナル・マーケティング学会の平成30年度研究助成を賜り実施した内容となり、学会賞に選出されました。

論文集『プロモーショナルマーケティング研究』Vol.12に掲載されております。
※本研究は、武蔵野美術大学ソーシャルクリエイティブ研究所客員研究員である水師 裕 さんとの共同研究となります。 

※参考論文

Holbrook, Morris B. (1993), “Nostalgia and Consumption Preferences: Some Emerging Patterns of Consumer Tastes,” Journal of Consumer Research, Vol.20, No.2, 245-256.