ゆるさとLabo

【序章】関係人口がもたらす「ふるさとを選ぶ時代」

●あなたにはふるさとが“いくつ”ありますか?

 

一見すると、不思議な質問かもしれません。一般的に「ふるさと」とは、

 

【ふるさと】

1 自分の生まれ育った土地。故郷(こきょう)。郷里。
2 荒れ果てた古い土地。特に、都などがあったが今は衰えている土地。
3 以前住んでいた、また、前に行ったことのある土地。
※出典:デジタル大辞泉(2021年3月3日アクセス)より

 

というように説明されています。「生まれ育った土地」であれば、基本的には1人にとって1つだけというように考えるのが自然かと思います。しかし、近年「ふるさとがいくつかある」という人、特に若い世代を中心にそのような人々が現れているように、私たちは感じています。1つの理由として、「関係人口」という人々の存在があります。

 

●関係人口という研究の出発点

2018年頃から「関係人口」という言葉は注目されてきました。総務省によれば、以下のように説明されています。

 

“「関係人口」とは、移住した「定住人口」でもなく、観光に来た「交流人口」でもない、地域や地域の人々と多様に関わる人々のことを指します。” ※出典:総務省「地域への新しい入口『関係人口』ポータルサイト」 (2020/3/3アクセス)より

 

 

もう少し噛み砕いて考えてみると、関係人口という存在は、“その地域には住んでいないけれど、その地域に「ある関心や目的」を持ち、定期的に訪問したり、その地域にプラスの影響を与えるような活動をしている人々”だと説明することができるかと思います。

 

 

私たちは「彼らがなぜ地域へ向かうのか?」という率直な疑問を抱きました。出身地や居住地ではない、ある地域に関わろうとする、彼らの動機や欲求が気になった為です。2020年3月、すでに関係人口となっている若者に調査を行いました。地域での活動内容や他者との関わり合いについての意識に着目し、因子分析・クラスター分析を用いて、いくつかの関係人口像(タイプ)を導出しています。調査の結果、地域づくりに貢献するような関係人口は、関わる地域に対して、まるでふるさとのようないくつかの感情を抱いていることを発見し、私たちはそのような地域像を「社会的ふるさと」と名付けました。

 

●関係人口がもたらす「新たなふるさと=ゆるさと」

この「社会的ふるさと」のように「生まれ故郷ではなく、若者が新たにゆるくつながる地域」を私たちは「ゆるさと」と総称することとしました。

 

冒頭の話に戻りますが、近い将来「自分が関わりを持ちたい」という地域を若者が見つけ、選び、関わりを築いていくという、「ふるさとを選ぶ時代」がやってくると思っています。すでに日本の一部の地域では、移住先としてではなく、ゆるやかな関わりを持つ地域に選ばれるような取組をすでに始めているかと思います。私たちは、関係人口となる若者に視点を置き、「新たなふるさとの形」について研究を進め、「若者と地域の心地よい関係」を見つけていきたいと思います。

 

次回以降のコラムから、「関係人口」について、第1弾調査について、発見内容・地域マーケティング示唆について等、複数回に分けてご紹介できればと思っています。ぜひお楽しみいただけたら幸いです。

 

 

※この研究は、日本マーケティング学会主催「マーケティングカンファレンス2020」のポスターセッションにおいて、「ベストポスター賞」に選出されました。