価値リノベーション研究

【vol.9】古さと新しさをミックスして価値を生み出す!

こんにちは。

最近、テレビ番組でも、「レトロな町特集」「レトロなカフェ特集」など、レトロにフォーカスした内容をよく目にすることが多くなりました。この令和時代ですが、「昭和歌謡曲」の人気も若者のなかで出てきているようです。

「古さ」が若者にとって新たな価値として捉えなおされることが、まだまだ広がりをみせていることが分かりますね。

若者がこうした「古さ」に反応しているということで、「懐かしいけど、新しい」といったフレーズも多く耳にするようになった人も多いのではないでしょうか。

本コラムで紹介してきた調査(vol.6参照)からも、「歴史的ノスタルジア(=懐かしさ)」、「新奇性」が重要なキーとなって、古いモノコトへの利用意図へと寄与していたことが確認されていました。

つまり、古いモノコトを若者に訴求するためには、「懐かしいなと思う感情」と「新しいなと思う感情」の両方を醸成させることが必要となるわけですが、今回はこの両者ミックスという点にフォーカスしたいと思います。

 

ニューロマーケティング(脳科学の知見を商品開発やマーケティングに活かしていくこと)の見地を紹介しましょう。

心理学者の廣中直行氏は、自身の著書の中で、「新奇性」と「親近性」について脳科学に基づき検討しています。ここでいう「親近性」には「懐かしさ感情」も含まれますので、若者のレトロブーム現象にも通ずるでしょう。

廣中氏によると、脳において、新奇性と懐かしさを検出する神経回路は別にあるようです。両方が重なり合うのは、前頭葉と頭頂葉が作る「前頭-頭頂ネットワーク」という神経回路であり、このネットワークが人の好みとどのように関係しているかは未知な部分も多いようですが、「新奇性」と「懐かしさ」という両者のバランスがちょうど良く交じり合ったところで「好き」という感情が頂点に達すると主張されます(廣中2018、67-68頁)。

ニューロマーケティングの領域から見ても「懐かしいけど、新しい」という感情を醸成させることは、そのモノコトに対する好意度向上へと寄与し、ブームを起こすことができたといえるのではないでしょうか。

 

 

これまでのコラムで、レンズ付きフィルムの「写ルンです」について取り上げ、撮影された写真をSNSに投稿することについて紹介しましたが、写ルンですで撮影される独特な風合いの写真への懐かしさ感情と、綺麗でビビットな写真が多く並ぶSNSにおいては、その違和感が新しさを際立てるという構図が成り立っていそうです。

 

他の事例として、「純喫茶」も若者から人気を得ていますが、メロンソーダなど、昔ながらのメニューをSNSに投稿するという行動も多く見られます。また「古民家カフェ」も昨今若者に人気となっていますが、古民家という古さを活かしながら、店内では、流行りのスイーツを提供していることが多くあります。若者の中で、スイーツ巡りやカフェ巡りというのはとても人気が高い行動ですが、その行動を、ノスタルジックな古民家の中で行うというギャップに新しさを感じるのではないでしょうか。これらは、「新奇性」と「懐かしさ」というバランスがうまくとれていたからこそ、ブームにつながったといえそうです。

 

今回は、古さと新しさのミックスについて紹介いたしました。

次回も是非ご覧ください。

※本研究は、武蔵野美術大学ソーシャルクリエイティブ研究所客員研究員である水師 裕 さんとの共同研究となります。 
※本稿の一部は『Renovation of value リノベーション・オブ・バリュー 負からのマーケティング』(田村・古谷・水師2020)の書籍で取り上げております。

※参考文献

廣中直行(2018)『アップルのリンゴはなぜかじりかけなのか?心をつかむニューロマーケティング』光文社。